綿々と続く「生命」を
身近に感じ暮らす豊かさ。
せんせい:長濱香代子
ながはま かよこ さん プロフィール
ガーデンデザイナー 。同志社大学哲学科卒。日本IBMを経て、独学でガーデンデザインの世界へ。1998年より家の中と外をトータルに考えるデザインオフィス「スタイル イズ スティル リビング」をインテリアデザイナー齊藤敏彦氏とともに設立。デザイン・施工・メンテナンスまで一貫して行い、これまで多数の個人宅をはじめ商業施設の六本木「Feria Tokyo」表参道「GYRE」原宿「b6」などの中庭やエントランス、壁面・屋上の緑化、小学校の校庭など数多くを手がけている。
庭は、大きな自然への入り口。
日常の中で、ふと緑のある場所を見つけると気持ちがいいものです。色とりどりの花、風にそよぐ木々や草の薫りに心は落ち着き、ときに感動さえします。「庭は、大きな自然へとつながっている」そう語るのは、ガーデンデザイナーの長濱香代子さん。個人宅の庭のデザインをはじめファッションビルなど商業施設の憩いの場や屋上の緑化などを手がけ、その卓越したセンスと植物に関する幅広い知識で活躍を続けています。南青山の賑わいから少し離れた通りにある長濱さんのオフィスを訪ねると、愛犬スウィーピーがお出迎え。大きな窓から自然光がさし込むその空間で、スウィーピーの頭を撫でながら長濱さんは穏やかに、庭のある暮らしの豊かさについてお話を聞かせてくださいました。
「自然を楽しみたいっていう人でも、突然大自然の中に置き去りにされたら怖いですよね。お家の庭など、身近に植物に触れる機会があって、はじめて自然を楽しめるようになれるんです。最初はひとつの花からでもいい。生き物だから同じ日が一日もないから毎日違う発見があって、何年も付き合ううちに、そこから派生して幹や枝葉、土壌の状態など様々なものに目がいくようになる。また自分の庭も環境の一部であると気づき始めるんです。季節は一度にやって来ないので、それは少しずつしか体験できないから身近にないと気づかない楽しさってたくさんある。だから庭は、綿々と続く大きな自然への第一歩の場所。敷地の大小に関わらず、例え小さなプランターでも、土があればそれは自然への入り口だと思います」
植物の変化が、生活と関わり合う様をデザインする。
ガーデンデザイナーの多くは、学校で専門的に学ぶか造園会社などで修行をしますが、長濱さんはなんとその知識と技術をすべて独学で習得したといいます。「そんな職業があることも知らなかったし、植物のことも何にも知らなかった」という長濱さんがその道に進んだきっかけは、15年前ちょうど前職を辞めた頃に買った庭付きマンション。多彩な樹々が植わっている庭に直感的に惹かれ住み始めると、その庭づくりに夢中になってしまったのだとか。家に何が植わっているか図書館で調べることから始まり、ポケットサイズの園芸書を携帯して街の植物を観察して回り、自分流のアレンジを庭に施していくという没頭の日々を2~3年も過ごしたといいます。そんな中、周囲から庭づくりを頼まれ始め、自然の流れでそれが職業となり、会社を立ち上げて今年で12年となるそうです。
ガーデンデザインには、大きくふたつの要素があります。ひとつは地面の区切り方や花壇の配置などハード面のデザイン、もうひとつはプランティングといわれるソフト面の植栽デザインです。長濱さんは、ハード面をただ美しく際立たせるよりソフト面を大事に考える、それが自身の仕事の特徴だといいます。
「私のデザインは、一見すると造り込んでいるように感じないと思います。メンテナンスも『手を加えていないようで加えている』という風にケアするんです。一番大切なのは、環境に逆らわないことですね。あとは施主さんの潜在的な想いを掘り起こすように細部を組み立てていきます。
植物がそこで自ら成長して、それらがだんだんと人や建物と関わりをもっていくことは、私たちの生活をドラマティックにしてくれる。それを大事にしていきたいです。同じ樹種でも施主さんのための一本を選ぶようにしています。その人の生活に、ずっと寄り添うものになるわけだから。一本の木があるだけでどれほど暮らしが豊かさを増すか、そしてその一本から自然のサイクルの中に私たちも生かされている、そんなことを感じてもらえたらいいなって思います」
ままならない「生命」から学ぶこと。
日常の節目に、例えばご褒美のように非日常的な何かを買ったり旅行をしたりすることも一種の贅沢のカタチかも知れません。しかし長濱さんの考える『贅沢』とは、毎日の生活自体が豊かかどうか。
「例えばプランターでもいいから小さな果樹や野菜を植えて日々育てながら、眺めたりして、収穫したら家族や親しい人と分かち合う。そんな日常ってささやかだけど幸せですよね。『園芸が趣味』ということではなく、植物と暮らすことも、ひとつの生き方であり、贅沢なライフスタイルだと思うんです。本当に何もいらないなって、満ち足りた気持ちになれるんです」
ただ植物は生命。大事にしていても枯らしてしまって、がっかりしたり後悔したりすることも多々あったとか。
「誰のせいにもできないから、そんな感情もすべて受け入れて『次はこうしてみよう』ってやるしかなくて。でも季節がもう一度巡らないと開花の時期はやってこないので結果はすぐに出ないから、植物と対話していく。それが自分との対話にもなるんです。そんな風に暮らしていると、ネガティブな感情でさえ素直に受け入れられるようになるんですよね」
自然の景色に感動するのはなぜか、それはただ美しいということではなく、あらゆる生き物が呼吸をしている目に見えない生態系を私たちは本能的に感じとっているからでは、と長濱さんは語ります。植物に限らず生命という自然に触れ、それに向き合うことは自分を成長させるための何か、自分にとって大切なことを教えてくれるのでしょう。庭は、その終わりなき学びの入り口なのかも知れません。
個人宅の離れ。「瞑想の場にしたい」という施主の要望に、「繭のなかに包まれるような空間」を提案。斬新な造りながら、丸いフォルムと草屋根が庭の緑に馴染んでいます。2009年『日本漆喰協会作品賞』受賞。
長濱さんの手による六本木の商業施設『Feria Tokyo』の壁面緑化事業。「都会の喧騒の中でも四季はちょっとしたチャンスで感じられる。道すがらふと見上げてくれたら嬉しい」と長濱さん。『港区 緑のまちづくり賞』受賞。
長濱さんに聞きました。
小さなスペースで緑を楽しむコツ
はじめに:
庭の敷地をよく観察する。日が当たる場所、半日陰になる場所など日照条件や風通し、水はけなど、
とりまく環境を知ることがお庭づくりの第一歩。
1:小さいものを沢山置かないこと。ボリュームのある植物を置くと塀から飛び出た枝葉の部分までが自分の空間かのように目が錯覚を起こし、広がりを感じることができます。
2:背景の材質を統一させること。フェンスやブロック塀、生け垣など何種類もあると散漫に見えてしまいます。
3:高低差や奥行きをつけて変化を出す。小さくても水盤や池があると植栽も豊かになって五感を刺激してくれます。
自然光の差し込むオフィス。ここにも天井にまで届きそうなボリュームのある木が置いてありました。
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